弟子入り
小朝:木久扇師匠に面接に来た人が、師匠がしゃべってるときにずーっと下向いてるからおかしいと思ったらさ、Twitterやってた(笑)木久扇面接なう、って書いてあった(笑)わかる?実話なんだから。面接のときにしちゃうんだよ
正蔵:一之輔さんのところは前座含めて見習いさんがいますね
一之輔:弟子は5人いますね。弟子入り志願結構来るんですけど、思った修業形態ではないみたい。先方はどう思ってんのかな。放任で育てますので、時間は自分のために使いなさい、そういう感覚なのでね
正蔵:自由な時間をちょっと作ってあげるように、結構緩くではないけど。自分の時間を持たしてあげるように育ててる
一之輔:修業がしたくてしたくて仕方ない人がたまに来ます「もっと厳しいと思ってた」みたいな。楽屋見てても、そんなやんなくていいだろうみたいにテキパキ働いて、目配せして。やりすぎちゃう。加減の方が大事なんじゃない?と
小朝:僕はもっと、前座さんが寄席を楽しんでくれたらいいと思ってんのね。トリの師匠が上がるでしょ。一席しゃべるじゃない?人情噺をやると。お客さんも喜んでてすごい拍手が来ますよ。すると演者ってやっぱりさぁ、その拍手をいっぱい浴びたいって時間があるじゃない。そういうの関係なく幕がスーッと下がる(笑)ちょっと待て、余韻をね、味わわせてほしいのにパッと閉めちゃう。
逆でさぁ、すごく間が悪くてさ、犯行現場から早く帰りたいのにさ、幕がなかなか閉まんないんだよ(笑)もうイジメかよと思うくらい幕が閉まんない。
あれね、演出家と同じなんですよ。幕をしめるタイミングでお客さんの余韻も違うから。すごく重要なの。そういう楽しみ方をしてくれる前座さんがいなくなってる。前座の時聴きたくない人を巻いたことある(笑)
一之輔:お前はいいと
正蔵:そんなのある?
小朝「すみませんちょっと短めにお願いします」聴きたい人のところで「ちょっと長めにお願いします」お菓子とお茶持ってって、ずーっとその人の話聴いてる。夢の時間だよ
一之輔席亭みたいだ
テレビと寄席と
小朝: 売れて、すごく感動した方どなた?
一之輔: 徹子の部屋に出していただいた。たけしさん。バラエティーいっぱい出していただいた。所さん、ダウンタウンさん、いろいろな方に会ったんです。感動はないです。むしろ、この人に聞きたいなというのはありました。ホントに楽しんでやってんのかな、とか。「こんなに徹子さんに聞く人初めてです」言われた(笑)そういう悦びはありますね。この人に会えてここまで来たな、っていうのはあんまりないですね。
なんでか。所詮な、僕はテレビで生きてる人間じゃない。腹くくってるからかもしれません。一個一個くさび打って生きてきたってのはあんまりない。徹子の部屋の後寄席にも出てるし。
だけど寄席を低く見てるわけじゃなくて、帰ってくるのが自分だなと。前座さんと「バカだな~」って言って、空間が浄化される。自分の空間ばっか相手してると、本当にどうにかなっちゃうんで。寄席で、自分の目当てじゃなく来てるお客さんの前でしゃべることが、こんなに自分にとってプラスなのか今感じてる。
そもそも落語との出会いが寄席だったので。やさぐれてるときに寄席行って、一生懸命しゃべってない人がいっぱい出てくるじゃないですか(笑)面白い人もいれば、全然面白くない人もいる。なんだかわからない、よぼよぼのオバアサン。そんな空間他にないですからね。ここに出たいなって落語家になった。
父・三平
小朝 あなたお宅に有名人とかスポーツ選手とかいっぱい来てたじゃない。だから噺家になる前に有名人にいっぱい会っちゃってるから、感動ないでしょあんまり
正蔵 ジャイアント馬場さん、キャンディーズさんがうちに帰ったらいるんで。こたつの上でキャンディーズが歌ってた。僕の中でのアイドルは、志ん朝師匠だったんです。
小朝 お父さんの弟子じゃなくて、志ん朝師匠の弟子だったらって考えることない?
正蔵 あります。多分途中でやめてた。修業が厳しくて。うちのお父さんに言ったんです「志ん朝師匠のところに行きたい」そしたら「なぁんで?」芸風が、と言ったら、おっかない顔してました(笑)
「おまえは三平のせがれなんだから、うちで修業した方がいい。きっと林家何某になって戻ってくるに決まってる。うちでやる以上は厳しくやる」
詰まったとたんにゲンコがパーン!おしまい!頬を殴られて。もう稽古じゃないですね。兄弟子たちも「こんなに長くうちの師匠稽古しないなぁ。おかしいなぁ、あんたに対して」異常。
小朝 稽古で殴られたの1回だけ?
正蔵 いや、最初の5、6回ずっと殴られてて「馬鹿野郎!お客さんの前で詰まったらダメなんだ」
小朝 あんなに詰まってる師匠が(笑)
知ってる?「三平落語誕生の秘密」先代の小せん師匠に聞いたんだけど、三平師匠が若手だった時に末廣亭に上がってたの。小せん師匠が座って聴いてたら、古典落語やってんだって、三平師匠が。途中で言葉出なくなっちゃったの。アーウー言ってたら客がだんだんウケてきたの。次の日末廣亭の近所の喫茶店に呼び出されて「昨日の僕の高座見てた?聞いてた?僕あれで行くからね」言われたの。古典落語ができなくてウケたので「これだ!」って。
詰まる師匠が(息子が)詰まるんで殴ったと。ひどいよね、その話
一之輔 詰まるんで一財を成した人が
正蔵 なんだろううちのお父さん。60年生きてきて
また古典落語やってください。絶対にリズム落語の古巣に逃げ込んではいけない。5秒に1回の笑いだけが笑いではない。あなたの湯屋番を、野ざらしをファンは待っている
NET(現テレビ朝日)アナウンサー馬場雅夫さん。雑誌「スタア」1975年9月号
笑点
小朝 出たかったの?
一之輔 いや、一切。むしろ笑点で、僕たち落語家はそういうイメージがついちゃってんなぁ、あの人たちのせいで、僕らは肩身狭いんだ、ぐらいに思ってました。若い頃。
小朝 向こう側の空間にあったのね
一之輔 完全に向こう側です。あの番組があることによって、噺家は認識されてるし。落語家って着物着て扇子もって座布団座ってんだ、お辞儀してしゃべり始めて...ってイメージは、笑点しか落語家を知らない人はイメージ持ってるわけですよ。そういう人に、落語を普通にやってちゃんと届けばいいなと
小朝 次のメンバーが誰って言うの、ずっと内緒にしてるじゃない。当然あなたも誰にもしゃべらなかったと思うんだけど、師匠にはどのタイミングで話した?
一之輔 発表の3日ぐらい前ですね。電話じゃいけないと思ってた。アポ取ろうと思って電話したら「明日は旅だ、明後日もいないかもしれない。なんなんだよ気持ち悪いなぁ、言えよ」僕怖かったんですよ。うちの師匠は笑点出るってところでは生きてない人なので。オマエそっち行っちゃうんだ、みたいな。そういう反応されるの悲しいなぁ、って思って。
うちの師匠は「よかったやん、よかったよかった」言ってくれたんです。
「寄席落語ももやりますんで」
「わかってるよ。お前は、ちゃんとやるよ」
僕は、本当にいい師匠に恵まれたなと。
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